プリント基板の 信頼性評価

プリント基板の信頼性評価について

ガス瞬間湯沸し器の事故では、制御基板のはんだ割れ(クラック)により動作不良が発生したケースがありました。プリント基板の経年劣化は避けられないため、製品の寿命を推定したり、不具合のデータを集めてものづくりに生かす作業は非常に重要です。そのため、信頼性評価の方法は、JISやMIL規格などで取り決めがされています。湯沸し器の事故では、クラックが発生した基板を交換せず、不具合部分を手直ししたケースがあったという記事をみましたが、私の感覚ではにわかに信じることができません。

No 評価内容
1 断面検査 T/H メッキ厚さ・スミア・クラックなど
表面 パターンメッキ厚さ
ライン/スペースの再現性
レジストインクなど
2 端子メッキ厚さ Au メッキ厚さ
Ni メッキ厚さ
3 半田耐熱性 半田温度・試験時間・回数(フロー・リフロー) 試験後、写真判定
4 半田付け性 半田温度・試験時間・回数(フロー・リフロー) 試験後、写真判定
5 絶縁性 測定電圧(DC V)測定時間
6 レジスト・シルクインクの密着性 ピール強度試験
7 パターンの密着性 ピール強度試験
7 端子メッキの密着性 ピール強度試験
9 スルホールの導通抵抗 単一穴
シリーズ穴
10 ホットオイル・ディップ オイル温度・ディップ時間(秒)
冷却液温度・ディップ時間(秒)
インターバル(移送時間)
11 対環境試験 熱衝撃・耐熱特性 MIL規格・JIS規格

私が今まで学んできた内容を元に、【表1】に品質評価項目をまとめてみました。試験条件の詳細についてはそれぞれの規格を参照してください。これらの個別の試験項目から、製品に最も適した評価条件を確立して、製品を品質管理することが重要ではないかと考えます。必ずしも個別の試験に普遍的な条件があるとは限りません。また、これらの試験は鉛フリー実装に関する試験項目とは完全には一致しないのでご留意願います。重要なことは、製品の品質や寿命に関しては試験・評価まで実施することが必要、ということです。

最近、人命に関わる事故の裏に、品質管理上の問題が隠れているように思われます。わが国では、経済の高度成長には、「ものづくり」に関して、海外の競争相手に打ち勝つために、製品の品質をとことんまで追求する文化が培われてきました。先輩たちの不断の努力が、日本製品の信頼性を積み上げてきたのです。しかし、海外製品の品質が向上し、さらに90年代の景気低迷の間に品質から価格偏重の流れが一般的になってしまいました。しかし、自動車に代表されるように、高い品質こそが日本製品の存在価値そのものではないかと考えます。

鉛フリー実装の導入に際して、基板の信頼性評価試験の項目とそれらの判断基準についてご質問をいただきますが、品質の管理責任は製品を製造するメーカーにあると考えます。そのため、実装品質の信頼性評価はセットメーカーの責任となります。製品が使われる環境により、試験項目と判定基準に相違があることは明らかです。例えば、自動車のエンジンルームと、空調の利いた環境に使われる製品で、同じ試験を実施する必要はありません。そのため、メーカー各社では、商品が使われる環境に即した試験項目を確立しておられることでしょう。ただ、諸々の試験をすべて網羅しようとすると莫大な費用と長い時間がかかります。そのため、当社では、まず温度サイクル試験、次に、PCT試験や高温高湿試験を実施することをお勧めしています。それぞれの試験の後に、部品と基板の接合強度を測定し、または接合部分の断面を観察すれば、最低限のデータは得られると考えます。これらのデータを元に試行錯誤を繰り返す過程を経て、実装品質の向上を図ることが可能になると考えます。鉛フリー化で環境への取り組みと高い品質を両立することで、日本製品が改めて世界の中で評価されるよいきっかけになればよいと考えます。

クラックと 基板の信頼性

クラックと基板の信頼性について

今回の原稿を作っているときに、湯沸し器大手メーカーの一酸化炭素中毒の話が大きく
報じられました。機器の安全装置の不正改造による事故のほかに、「機器の劣化に伴う基板のはんだ割れによる安全装置の作動不良」に起因する事故が過去に発生していたとのことです。(7月19日付毎日新聞)特に寒暖の差が大きいと、基板への負荷も相当なものです。メーカーの品質担当の方も、10℃~60℃程度の使用環境を想定していたとのことでした。

クラック(はんだ割れ)とは、時間の経過に伴って発生・進行するもので、はじめは小さい割れが成長し、接合部分の抵抗値が上昇します。抵抗値が大きくなればジュール熱が発生します。クラックが進行してゆくと、いずれ接合部分がオープン状態になって製品としては使えなくなります。使えなくなるだけではなく発熱しますので、最悪の場合には発火する恐れもあります。

今まで何度か述べてきましたとおり、はんだから鉛を取り去ってしまうと、鉛の持つ応力を逃がす効果が減少して、はんだは硬く脆くなります。つまり、クラックの発生リスクがより大きくなるわけです。クラックは、表面実装部品、貫通部品いずれにも発生しますが、基板の膨張収縮の応力を受けやすい貫通部品の方が発生しやすくなります。また、鉛を含むはんだでは、クラックは一定の速度で進行しますが、鉛フリーはんだでは、発生すると一気に進行する傾向があるようです。

そのほかに、クラックとは異なりますが、「引け巣」が多く発生することも鉛フリーはんだの特徴です。引け巣とは、はんだが固まる際に発生する凝固割れで、原則的には、進行性はないと言われています。しかし、小さい引け巣では問題はありませんが、フィレットから基板内部に向かって発生した引け巣では、経時経年劣化の過程でクラックが発生する恐れがあります。大きな引け巣は無いに越したことはありません。引け巣の発生を抑制するためには、フロー実装後にいかに早くはんだを冷やすことができるかが重要です。

これまで述べてきましたとおり、基板は時間の経過に伴って品質が劣化します。そこで、基板を加速試験にかけて製品としての寿命を想定する作業が必要になります。鉛フリーはんだの評価試験では、JEITA(電子情報技術産業協会)が推奨する試験項目が公開されています。

はんだを鉛フリー化すると、材料の特性が大きく変わるため、製品の寿命推定も重要な
評価項目になります。基板実装の当初では問題が無いように見えても、経時経年劣化により将来不良が発生するリスクまでは想定できません。寿命を予測するためのノウハウ確立に必要な対応は、早いうちから進めておくべきではないかと考えます。

次回は、信頼性評価試験について、基板の評価項目を少し詳しく述べてみたいと思います。

鉛フリー実装と 部品ライブラリ

鉛フリー実装と部品ライブラリ

はんだから鉛が無くなって変わるところを今一度おさらいしてみましょう。以下は、Sn-3.0Ag-0.5Cuを想定しています。

  1. 融点が上がる(183℃ → 約217℃)
  2. 非共晶である(融ける温度と固まる温度が必ず同じとは限らない)
  3. 硬さが異なる(濡れが悪くなる)

などが大まかに言って挙げられます。

そこで、接合強度の評価が求められる訳ですが、濡れ性が悪くなるため、ランドの不濡れ(赤目)が多く発生することはご承知の通りです。そこで、ランドの形状(部品ライブラリ)をどう変えるか、が問題になります。今までは、部品メーカーの推奨ランドがありましたが、実装品質はライン毎に異なるため、メーカーの推奨ランドをそのまま使えばよい、という状況ではなくなります。

では、どうのように部品ランドを規定すればよいのでしょうか?

まず、表面実装部品は、Z方向の膨張収縮の影響を受けにくいことから、ボイドと低融点合金の形成に注意を払えばよいのではないかと考えます。つまり、接合強度を第一に考える必要があります。言い換えれば、接合強度が保持されていればよいということになります。詳しくは検査・評価項目は別の項で述べましたので参照してください。ランド端の赤目は端的に言って気にすることはないと考えます。ただ、赤目を放置しておくと酸化が進みます。そこで、赤目の対策としてランドを小さくすることをお勧めします。QFPやSOPの実装では、フロントフィレット・バックフィレットが形成されていれば、接合強度の上で問題はありません。

コンデンサ

次に、フロー実装部品ですが、基板のZ方向の膨張・収縮の影響を多く受けることもあって品質の管理が特に重要です。不濡れやボイド、低融点合金の生成に加えてクラックの発生など、品質低下に直接つながる不具合が多発します。部品ライブラリについては、現状では即効性のある方策はありません。スルホールにはんだがあがれば、部品面側のランドを小さくする選択肢もありますが、スルホールにはんだがあがらなければ意味がありません。多層板では内層のグランドや電源層ではんだが止まってしまうケースもあります。

コンデンサ

そこで、穴径・ランド径の仕様をどうするかをしっかり検証する必要があります。穴径は特に重要です。部品のリード(ピン)と穴径の相関関係をチェックして、最適な穴径とランド径を見つけてください。その前にコンベアの角度や速度、温度プロファイルなどの条件出しもして、ボイドや引け巣の対策をしておくことも必要です。評価結果を基に部品ライブラリを構築してゆくことになります。同じ部品を同じ条件であってもはんだ上がりは同じではありません。当社では穴径とはんだ上がりを評価することができる評価基板を販売しています。

はんだの濡れ性に ついて(2)

はんだの濡れ性について(2)

鉛フリー実装に移行する際に、部品側の鉛フリー化は必須です。ただ、現在は、鉛フリーはんだ導入への端境期でもあり、鉛フリー未対応のリフロー炉やはんだ槽で実装するケースもあれば、鉛フリー未対応の部品も残っているようです。そのような状況を反映して、以下の質問をよくいただきます。

  1. Sn-Pbはんだで、鉛フリー対応済み部品を実装して問題はないか
  2. 鉛フリーはんだで、有鉛部品を実装して問題はないか

RoHS指令の発効後はどちらもNGですが、過渡的にはどちらのケースも考えられます。

電子部品はかなり鉛フリー化が進み、日本国内の多くのメーカーが鉛フリー、またはRoHS指令対応を謳っています。しかし、部品の鉛フリー化は有鉛品からのランニングチェンジとなる場合がおおいため、未だに一部の有鉛部品が市場に出回っているようです。先日、鉛フリー対応済みの部品にも関わらず、在庫品に有鉛品が紛れ込んでいたため蛍光X線検査で鉛が検出された、などという笑えない話も聞きました。

さて、前出の質問ですが、1.について問題はないと考えますが、2.は信頼性に影響を及ぼす恐れがあります。これまでも折に触れて申し上げてきましたが、はんだが変わって一番重要なことは、「いかに接合信頼性を確保するか」ということです。ところが、部品の端子(リード)に鉛が含まれていると、基板とはんだの界面に融けだした鉛の層ができてしまい、接合面が脆くなってしまいます。リフトオフの項でも述べましたが、基板とはんだの界面に低融点の合金層ができると、その部分の接合強度が著しく低くなってリフトオフなどの不具合を起こします。はんだにビスマスが含まれると、更に低融点の合金層ができて強度を低下させてしまいます。

温度サイクル試験や高温・高湿試験を実施して断面を観察すると、はんだの劣化の傾向が現れます。このため、有鉛部品を鉛フリーはんだで実装することは、避けた方が無難です。フロー実装の場合には、端子(リード)部分の鉛が半田槽に融けだしてはんだの組成にも影響があります。

接合部分の界面では、いろいろなものが接合強度に影響を与えます。ビスマスや、部品の端子部分の鉛、また基板表面の劣化など多くの不具合の因子が隠れています。実装温度の管理に問題があるとカーケンダルボイドの発生を誘発します。また、基板の銅自体が酸化していることもあります。金フラッシュメッキの基板の下地が酸化しているとはんだが濡れているようで濡れていない場合もあります。外観上でははんだが濡れており、不具合が見えないことが恐ろしいところです。

湿気を避け基板の表面の酸化を防ぎ、はんだの品質を管理し、実装に至るまでの埃や異物の混入を避け、実装時の温度プロファイルをしっかり管理することをお勧めします。

はんだの濡れ性に ついて(1)

はんだの濡れ性について(1)

鉛フリーはんだは、従来のSn-Pbはんだに比べて融点が高いことは広く知られています。今まで広く使われていたSn-Pbはんだの融点は183℃ですが、新たに登場した鉛フリーはんだのうち、Sn-Ag-Cu系のはんだの融点は220℃近くまで上昇します。リフロー炉やはんだ槽の設定温度を考えた場合、融点がいかに重要になるか理解していただけると思います。

コンデンサ

鉛フリーはんだを使うと濡れ性が悪くなります。これは、鉛フリーはんだの性質によるもので、止むを得ない部分があります。【写真1】をご覧いただいて分かるのは、Sn-Pbはんだはランド全体に行き渡っていたものの、鉛フリーはんだは濡れ性の悪さから、ランドに「赤目」が見えています。【写真2】も同様です。

ただ、私どもは、これを「不良」と判断するには抵抗を感じます。なぜなら、部品と基板の接合強度に問題がなければ、基板の機能や性能に問題はないのではないかと考えるからです。もちろん、赤目は後々腐食のもとになりますし、無条件で良品と判断することはできないのも事実です。また、基板表面の汚染や、温度管理の問題からはんだが基板表面で球状になってしまっては不良です。「不濡れ」とか「ディウエッティング」などと呼ばれているようです。【写真1】では、赤目よりも「不濡れ」の傾向があり、こちらがむしろ大きな問題です。

コンデンサ

そこで、「機械強度」のデータが意味を持つようになります。これは、基板上に実装された部品と基板の接合強度を数値化したもので、「引っ張り試験」と「せん断試験」が標準的な試験です。試験方法はJIS規格で決められているので参考にしてください。QFPの場合は、フロントフィレットとバックフィレットの形成状態が重要になります。「不濡れ」が発生すれば当然、接合強度が低下します。機会強度の数値データベース化して製造現場で管理すれば、「赤目」と接合強度の因果関係が明らかになります。さらに踏み込んで、最適なランド仕様を絞り込んで、基板の製造仕様に反映させれば、「鉛フリー実装用ライブラリ」の完成です。電子部品メーカー各社では、部品毎に推奨ライブラリを公開していますが、これは、鉛フリー実装でも通用するものではありません。特に、貫通部品では、今までの穴径でははんだが上がらず、穴径を変更することで改善する場合があります。このため、はんだの濡れ性の評価は絶対に必要です。当社では、実際の製品ではできない、この評価をする評価基板を販売していますので、興味をお持ちのお客様はお気軽にお問い合わせをください。

ただ、今回の話はこれで完結ではありません。すべての部品・はんだから鉛が完全に駆逐されていれば話は簡単ですが、問題は少量の鉛が存在する場合です。

次回は、鉛フリー実装において少量の鉛がふくまれるとどうなるのか、記述してみたいと思います。

緊急告知:
RoHS指令の発効まで4ヶ月を残すのみとなりました。今までも何回か、このコラムでも申し上げてきましたが、はんだを変更すると信頼性の評価データが必要になります。この評価データを作成するには少なくとも2ヶ月の日数がかかります。ところが、最近、試験を実施するための設備の空きが少なくなって、お客様からの試験のご依頼に対して遅れが出始めています。現在(2006年2月初旬)でも試験の開始は、2月末になってしまう状態です。6月出荷の製品で鉛フリー実装への対応を完了させようとすると、3月初旬にはスタートしていただきたいと考えています。